企画小話:プロット-case03
「設定完了、っと。どうだそっちは?」
「ええ、問題なくデータ届いてますよ。そちらにもこちらのデータが届いてますかね?」
「エラーは出てないな、大丈夫だ」
東京のビジネス街の一角。小さいカウンター席のある喫茶店。
店の奥の一室に置かれた筐体を前に一人の男が端末を操作していた。
「ゲームって言ったが結構ちゃんとしてんな、蒼さんよ」
「一応は各惑星調査データをベースにしていますから、原生種やダーカーなどのデータはそれなりに精密に作ったつもりですよ?」
「ほー、しかしなんでまたこんなモン作ったんだ?」
「タダの趣味ですよ」
通信パネルの向こうに映る「蒼」と呼ばれた青年はニコリと笑い、かけているメガネの位置を直す。
「カトラさんも元は情報収集向きではないのでしょうし、退屈で飽きていたでしょう? 暇つぶしには丁度宜しいかと」
「まあねえ」
素知らぬ顔で話題をすり替える通信相手に、掴み処の無さは司令官とあんまり変わらねえな、とカトラは思ったが、事実ではある。
地球も騒動がひと段落したこともあり、比較的平穏な日が続いている。
調査部所属アークスの一員としての仕事も一時期よりだいぶ落ち着き、時折退屈に感じることすらある。
「シップに戻ればダーカー退治の任務などいくらでもあるでしょうが......、そんなにそちらの暮らしは居心地が良いものですか?」
「なんだろなあ、地面にちゃんと立ってるってのは新鮮でなんか離れられなくなっちまってなあ。......例えるなら俺の故郷はここだったって感じ?」
「シップ生まれなのに?」
「シップ生まれなのに、だ。不思議なもんだろ? マザーシップの成り立ちを考えると、惑星には生命の故郷みたいなモンでもあるんだろうな」
「そうですね......、僕には今一つ想像できませんが。うちのご当主だと即座にその通りだと頷いてくれそうですが」
小さく肩をすくめる蒼に違いねえ、と頷くカトラ。
「それで、こいつをどうすんだ? 普通の人間にはただのやたらリアルなゲームってだけだろ?」
「その点は抜かりなく。テスト運用で遊んでくださる方を募ってみまして。ほら、貴方の店にちょくちょく来ている子もいますね。この方々同士で対戦モードを使ってみて頂こうかと」
そう言って、蒼はこれが仕様です、とデータの羅列をディスプレイに流す。
「まだテスト運用ですから、武器は出力調整を間違えると大変なので......。あくまで運動データのテストを主目的とさせて頂きました」
「武器の再現禁止、と。なんだよ素手でやれってか?」
「まずはあくまでヒトの体の動きをより操作者のイメージに忠実に再現できることが重要ですから。共通シップのような巨大設備を使用すればその点はかなり精密に再現できますが、このサイズでは処理できるデータにも制約があるので」
「ま、地球にも対戦型の格闘ゲームとかいうのあるからそれとおんなじと思えばいいってとこだな。面白そうだから俺もそのリストに混ぜとけ」
蒼は、カトラの言葉を待ってました、という表情で答えた。
「ええ、勿論。早速ですがそのバイザーを着けてくださいな。身体データの登録を致しますので」
シトシトと架空の雨が降り注ぐ、森をモチーフにしたアリーナの中央。
「はっ!」
間違いなく相手を捉えた、と思われた拳は空を突く。
「っ!」
気を抜く間も無く頭上から振り下ろされる気配に身を引き回避する。
「はっ!」
着地し、一歩前に。アイトの頭部を狙い、振り上げ気味の蹴りを放つ黒曜。
「!」
避けられないと見越し、アイトは地を踏みしめ重心を下げる。
両腕をかざし蹴りを受け止める。その足を捉えようとするが、黒曜はするりと手の間をすり抜ける。
(逃すか......!)
得意な接近戦に持ち込もうと間合いを詰める。オミシズメの袖口が指先に触れたのを逃さず、力任せに引き寄せようとする。
「くっ!」
腕を振り払うと同時に後ろ回し蹴りで間合いを取る。
「......」
構え直し、相手の出方を伺う黒曜。
「もう少しだったんですがね......」
なかなか思う通りの距離に持って行かせてはくれないな、とアイトは小さく呟く。
「そちらこそ、なかなか大人しく捕まってくれませんが」
黒曜は黒曜で体格的には勝てないと奇襲を軸に攻撃を試みていたが、どうしても押し切れない。
「お試しで捕まるにはちょっと厳しいですね」
軽く苦笑で返すアイト、黒曜の蹴りは確実に急所を狙ってくる。気軽には受けられない。
「しかし、小さい機材なのにこんなことができるのは興味深い、どんな仕組みで動いてるんでしょうか」
アイトは興味深げに軽く辺りを見回す。機械技師としてもこの小型VRの機構には興味を抱いたのが今回のテスト運用に参加した動機の一つだった。
「俺にも難しい事は分かりませんが、行き過ぎた趣味みたいな物でしょう」
軽く肩をすくめる黒曜。
「時間には一応制限がある様ですし......、再開しましょうか」
するりと衣摺れの音と共に構え直す黒曜に、あとで仕組みを聞いてみようか、と呟きアイトも構えたのだった。
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