企画小話:プロット-case01
「設定完了、っと。どうだそっちは?」
「ええ、問題なくデータ届いてますよ。そちらにもこちらのデータが届いてますかね?」
「エラーは出てないな、大丈夫だ」
東京のビジネス街の一角。小さいカウンター席のある喫茶店。
店の奥の一室に置かれた筐体を前に一人の男が端末を操作していた。
「ゲームって言ったが結構ちゃんとしてんな、蒼さんよ」
「一応は各惑星調査データをベースにしていますから、原生種やダーカーなどのデータはそれなりに精密に作ったつもりですよ?」
「ほー、しかしなんでまたこんなモン作ったんだ?」
「タダの趣味ですよ」
通信パネルの向こうに映る「蒼」と呼ばれた青年はニコリと笑い、かけているメガネの位置を直す。
「カトラさんも元は情報収集向きではないのでしょうし、退屈で飽きていたでしょう? 暇つぶしには丁度宜しいかと」
「まあねえ」
素知らぬ顔で話題をすり替える通信相手に、掴み処の無さは司令官とあんまり変わらねえな、とカトラは思ったが、事実ではある。
地球も騒動がひと段落したこともあり、比較的平穏な日が続いている。
調査部所属アークスの一員としての仕事も一時期よりだいぶ落ち着き、時折退屈に感じることすらある。
「シップに戻ればダーカー退治の任務などいくらでもあるでしょうが......、そんなにそちらの暮らしは居心地が良いものですか?」
「なんだろなあ、地面にちゃんと立ってるってのは新鮮でなんか離れられなくなっちまってなあ。......例えるなら俺の故郷はここだったって感じ?」
「シップ生まれなのに?」
「シップ生まれなのに、だ。不思議なもんだろ? マザーシップの成り立ちを考えると、惑星には生命の故郷みたいなモンでもあるんだろうな」
「そうですね......、僕には今一つ想像できませんが。うちのご当主だと即座にその通りだと頷いてくれそうですが」
小さく肩をすくめる蒼に違いねえ、と頷くカトラ。
「それで、こいつをどうすんだ? 普通の人間にはただのやたらリアルなゲームってだけだろ?」
「その点は抜かりなく。テスト運用で遊んでくださる方を募ってみまして。ほら、貴方の店にちょくちょく来ている子もいますね。この方々同士で対戦モードを使ってみて頂こうかと」
そう言って、蒼はこれが仕様です、とデータの羅列をディスプレイに流す。
「まだテスト運用ですから、武器は出力調整を間違えると大変なので......。あくまで運動データのテストを主目的とさせて頂きました」
「武器の再現禁止、と。なんだよ素手でやれってか?」
「まずはあくまでヒトの体の動きをより操作者のイメージに忠実に再現できることが重要ですから。共通シップのような巨大設備を使用すればその点はかなり精密に再現できますが、このサイズでは処理できるデータにも制約があるので」
「ま、地球にも対戦型の格闘ゲームとかいうのあるからそれとおんなじと思えばいいってとこだな。面白そうだから俺もそのリストに混ぜとけ」
蒼は、カトラの言葉を待ってました、という表情で答えた。
「ええ、勿論。早速ですがそのバイザーを着けてくださいな。身体データの登録を致しますので」
うっそうと緑の茂る森の中、時折聞こえる鳥の声。
ガササッ!
「!」
森の中でひときわ大きな樹の上、一瞬大きく枝を揺らした黒い影を追う璃緒。
しかし、枝のあったところに飛び上がってもそこに影は無く。
「ああもう!」
地球に忍者ってのがいると資料で見たけどそれかよ! とぼやく。
「えっ、忍者っぽい!? そうなら嬉しいけど!」
木々の間から嬉しそうな声が上がる。
「!?」
声の上がった方向へ駆け寄る。そこには追っていた相手。
今度こそは、と拳を振り下ろす。
「やっべ、つい」
一歩身を引き、拳をいなしつつ椿丸は苦笑いをする。
「にいさん割とドジっ子?」
「ドジっ子ってなんかそれカッコよくない響きなんだけど!?」
「いいじゃんドジっ子、可愛い感じで!」
「可愛いは俺のスタンスには要らないし!」
これまでと違い身を隠す気配のない椿丸に璃緒はよし、と心の内で頷く。身のこなしは敵わないが挑発に乗ってくれれば捕まえる隙ができるかも知れない。
蹴りを両腕で受け止め、すかさず捕まえようとするがそれは力任せに引き剥がされる。
もう一声必要か、と璃緒は言葉を投げかける。
「萌えってのも最近の地球の忍者には必要な要素らしいよ?」
「その萌えってのも絶対なんか方向性違うだろ!?」
思わず大きな身振りで否定した椿丸の懐、身を屈めた璃緒が胸元の衣服をしっかり掴んでいた。
「しまっ......」
とった......! と璃緒が確信した瞬間。
鈍い音が森の中に響いた。
「......あれ?」
投げられる、と思ってとっさに煙幕を投げた筈だが、煙は影も形もない。それどころか自分を投げる筈だった璃緒は額を抑え唸っている。
「い......っ」
「悪い、間違った!」
璃緒の傍らには一個のラムダグラインダーが転がっていた......。
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